従来の学校は、教師主導型で、そこで学ぶ生徒にとっては、忠実に知識・技能の修得し、一定の水準に達することが最大の目標でした。それは、社会の変化が少なく、学校で教わった「知識」を当てはめれば社会生活を送ることができたからです。
ところが、情報化社会といわれる今、我々の周囲には次々と新しい情報が伝えられ、学校で習得した知識だけでは処理しきれなくなってきました。次々と現れる情報の中で生きてゆくために、「知識」ではなくて、「学び方」「問題を解決する方法」を学ばねばなりません。
この「学び方」「問題解決法」は、画一的なものでなく、個人個人に異なったものになるでしょう。そして、生徒自身が主体的に学習活動を行い、発見・追求・表現を通じて、知的能力や特性を伸ばすことが求められます。
いま、個性重視の教育が叫ばれています。個性尊重とか、個性を伸ばすとは、自由勝手な言動を認め、欲求のままに行動させること、異才、天才、タレントをつくることと考えられがちですがそうではありません。互いに存在を認めあい、尊重しあう中で、個性は作られます。学校でしか学べないもの、それは、「学校」という集団の中で作られる人間関係であり、「友と一緒に」という環境です。この環境の中で互いに刺激しあい、影響を与えたり、受けたりしながら成長を遂げるのです。
もう一つ、個性を伸ばすには個人個人が知識を持っていることが必要です。一時的な興味、思いつきによる行動は、自己満足に陥ってしまう可能性が非常に大きいことを認識しておく必要があります。
何が珍しいことであり、新しい発見であるかは、個人の持っている知識・経験を基準にして行われます。したがって、他人からも認められるためには、知識が必要となります。
「偶然に発見」ということを言われますが、パスツールの言葉に『観察の場では、幸運は待ち受ける心構えしだいである。』というのがあるように、すべてを綿密に観察し記録し、研究分野に関連することを広く知っており、結果を『常識』で切り捨てない柔軟さを持った人が、「偶然に」発見をするものです。
「個性」とは対極的に見える「知識」を蓄えることによって、個性を伸ばすということは、奇妙に感じるかもしれません。基礎のないところからは何も生まれないと言うことです。そのための基礎、基本をしっかり体得しておくことが必要になるのです。
「学校にて」は、私（小田桐 一良）が 兵庫県立須磨友が丘高等学校に勤務していたとき、「友高通信」「育友会報」などを通じて生徒諸君に語り掛けてきたことを集めたものです。
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